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長崎地方裁判所 昭和24年(行)34号 判決

長崎県北高来郡小長井村大字井崎名六七八番地

森喜平

右訴訟代理人

弁護士

中山八郞

諫早市諫早税務署内

被告

諫早税務署長 妹尾千尋

右指定代理人

浅木巽

右当事者間の昭和二十四年(行)第三四号差押取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の訴は、これを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が別紙目録記載の物件について、昭和二十四年六月二十八日為した差押処分はこれを取消す、との判決を求め、その請求原因として、

被告は、原告が昭和二十二年度分国税六万円を滞納しているとの理由で、昭和二十四年六月二十八日別紙目録記載の物件に対し差押処分をし、原告から該年度所得税は完納したのに拘らず淸算もせず、更に昭和二十三年度分の国税を滞納しているとの事由で原告及び同居親族の日常生活上欠くことのできない衣服、家具、祭祀礼拜用具、職務上必要な制服祭服等を差押えている。斯様な衣服類は、差押禁制品であるばかりでなく、前記昭和二十二年度所得税の滞納処分に際しては、原告の妻森スエノの箪笥を税務署に引揚げて完納後もこれを返還しないのであつて、原告並びに家族の日常生活上非常な障害を受けていて、又今後何時競売されるやも測られない状況にあり、斯様な不法処分を甘受していては将来再びどんな不法処分を受けるかも知れないし、国税徴收法による審査手続を経由する余裕もないので、行政事件訴訟特例法第二條但書の規定に従つて直接行政訴訟が許されるのであるから茲に右違法な差押処分の取消を求めるため本訴提起に及んだと述べ立証として甲第一乃至第七号証を提出した。

被告指定代理人は本案前について主文と同旨、本案について原告の請求棄却、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、

本案前について、本件訴訟は元来国税徴收法第三十一條の二及び同條の四の規定に従つて当該処分のあつた昭和二十四年六月二十八日から二ヶ月以内に国税局長に対し審査の請求をし、右国税局長の決定に対し不服ある場合始めて訴願又は裁判所に対する行政訴訟の提起が許されているのであるが、原告は右手続を経ないで直接本件訴訟提起に及んだのであるから、不適法として却下を免れないばかりでなく、原告主張のような事由は、行政事件訴訟特例法第二條但書所定の特段の事由にもあたらない。即ち差押処分から公売処分に至るまでは公売公告をし、公告の日から十日の期間を経過した後該処分を執行するのを原則としている(国税徴收法施行規則第十九條、第二十二條参照)のであつて、其の間同法第三十一條の二に定める審査請求を為すことができるばかりでなく、右公売にあたつては正当な時価によつて処分されるのであるから何等経済的に著しい損害を與えるものではない。

更に本案について、被告が原告の税金滞納のため原告主張日時別紙目録記載の物件に対し差押処分を為したことと原告の昭和二十二年度分国税がその後完納されたことと又右滞納処分として差押えた箪笥一棹を同人に返還せず淸算手続もしなかつたことは認めるが、その他の点については総て争う。先ず昭和二十二年度原告の所得税については滞納金九万五千八百九十四円、延滞金一万二千五百四十九円、督促手数料五円、弁償金滞納額千五百五十二円以上合計十一万円であつたのに対し、昭和二十三年十月八日内金五万円の納入があり、その後昭和二十四年三月二十七日に至つて漸く完納したのであるが、昭和二十三年度分についても営業所得があり乍ら予定申告も確定申告もなかつたので、被告に於て、該税額を二十三万七千三百八十円、加算税一万四百四十一円と決定し、昭和二十四年二月十六日限り納付するよう納税令書を原告に送達したが、その納付をしないので、更に同月二十日督促をしたが、猶今日まで納付していない。そこで何時でも差押処分に着手し得る状態にあつたのであるが、税務署としてはなるべくこれを避け高柳事務官を同年五月二十五日原告宅に出張せしめたところ原告は所有船舶を売却し六月十五日限り納入するから差押えを見合すようにと懇請したので、右約束の期日に納入あるもの期待していたところ、全然これが納入しないばかりか被告からの葉書による出頭方の慫慂に対しても何等の回答をしないので、先に昭和二十二年度分所得税滞納の際差押えた物件中箪笥が税務署に引揚げられたままで原告から受けとりに来ず残置されていたので昭和二十三年度分税金滞納処分のため右箪笥も加えて別紙目録記載の物件に対し差押処分を行つたのである。そして差押物件について公売処分を行つた際は、本人に対し淸算通知をするのに対し、現金納付の場合は淸算通知を義務づけている規定もないので昭和二十二年度分完納後も運賃の関係から税務署に残置されたままとなつていたもので、今次の差押処分は昭和二十三年度分所得税滞納のため為されたものであることについては、昭和二十四年五月二十五日高柳事務官が原告宅に出張した際戒告したところから充分察知せられ得ることで、本件差押処分には何等違法な点はないと述べ、甲号各証の成立を認めた。

理由

昭和二十四年六月二十八日被告が原告に対する国税滞納処分として別紙目録記載の物件に対し差押処分を為したことについては当事者間に争いがない。

そこで被告の本案前の抗弁について審案するのに、成立に争いのない甲第一乃至第五号証によれば、原告は昭和二十二年度所得税を滞納し、昭和二十三年十月八日内金五万円を昭和二十四年三月二十七日残額六万円をそれぞれ納付して右滞納額を完納しているのであるが、その間箪笥一棹の外木材の差押えを受け、該差押処分中箪笥は税務署に引揚げられ同署に保管せられていたのであつて、前記完納と同時に差押処分は解除せられたところ、更に昭和二十三年度分所得税について全然納付せず、被告の再三の督促にも拘らず納付の見込がないので偶々右税務署に差押処分解除後残置されていた右箪笥を含めて別紙目録記載の物件に対し、昭和二十三年度所得税の滞納処分として本件差押のやむなきに至つたことが認められ、甲第六、七号証によつても右認定を覆えすに足らない。

もしそうだとすれば、被告の本件滞納処分には、何等異例に属する処置が採られた形跡がないので、右滞納処分に対し異議ある原告は、国税徴收法第三十一條の二、同條の四の規定する審査手続を経て始めて行政訴訟の提起をすべきであるのに、該手続を採らず行政事件訴訟特例法第二條但書にあたる場合であるとして(原告の全立証によつても斯様な事由は認められない)、直ちに本訴提起に及んだ本件訴は不適法な訴として却下を免れないものといわねばならない。

そこで訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八十九條を適用して主文のように判決する次第である。

(裁判長裁判官 林善助 裁判官 厚地政信 裁判官 安仁屋賢精)

(目録)

〈省略〉

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